2014年9月19日金曜日

研ぎ澄まされる人々

サンパウロ被害速報、なるものがある。
領事館から、在留登録している邦人に流される、emailベースの日本人被害速報である。

スリ、置き引き、車乗車中の拳銃強盗、空き巣など、実に多岐に亘る被害事例が、多い月では毎週、均すとだいたい隔週一回のペースで流れてくることになる。時間や場所は、明るい時暗い時、人気の多い少ないに限らず、至る所で発生しており、そのバリエーションは豊かだ。

この都市サンパウロで被害に遭う遭わないは、ハッキリ言って時の運だと思う。だからいつなんどき賊に遭遇しても最小限の被害で済むように、なるべく丸腰で移動することを心がけているし、来訪者にもそう呼びかけている。ただし1万円相当の現金は常に保有して、すぐに出せる場所に持つようにしている。このあたりの賊は金銭目当てであり、命を取るものではないからだ。逆に金を持っていないとなると先方は焦り、何をしでかすかわからないというパターンだ。

日本人だけがターゲットかと言うと、地元のブラジル人も日常茶飯事的に何らかの被害に遭っている。コワモテの現地人であって例外ではなさそうだ。ひどい話では、男性の結婚指輪(よくある単なるリングで、何の石もついていない代物)まで盗られたというケースも聞いた。それを盗っていったいどんなメリットがあるというのか。相手は拳銃を持ったティーンエイジャーであることがどうやら多い様だ。また、レストラン根こそぎというケースもしばしば聞く。ガードマンを雇っていても、である。

「時の運」、そうはいっても用心するにこしたことはない。街歩きの仕方を心得ておく必要がある。この街の人々はその点実に研ぎ澄まされている。赴任して感心したのは、次に挙げるような点で、現地の人々は実に用心深い。

・持ち物
カバンなどは基本持たない。持ったとしてもリュックを多用。
人込みではそのリュックを背中ではなく腹に抱えるなどしている人もある。

・「ながら」をしない
スマホ操作しながら歩く人は非常に少ない。盗られるからだ。
通話をしている人はしばしば目にするが、それも最小限に済ませている様に見受けられる。イヤホンで何かを聞きながら歩いている人も少ない様に思う。防犯センサーが低下するからだろう。

・歩くスピード
特に一人の時は、男も女もさっさと歩く。のろのろ歩いていては、賊の格好の餌食だ。

・視野
街を歩いているとき、彼らの視野は広い。常に背後に気が配られている。私などジョギングしながら歩道で前の歩行者を追い抜こうとすると、足音もしくは息遣いからか510m手前で必ず振り向かれる。日本では恐らくこういうことは無いはずだ。

以上は街歩きに関してのことであるが、車の運転でも同様のことが言えると思う。
道路に空いた穴、突然の車線変更、あいたままのマンホールのふた、大きな交差点なのに消えている信号、予告なく閉鎖されている道路、可動式の中央分離帯(渋滞緩和の為に往路と復路の車線数を調整する、しかも手動)等の障害に対応すべく、サンパウロのドライバーたちは常に研ぎ澄まされることを要求される。後ろから追突されたなら、賊に囲まれる危険性を察知してその場をすぐに立ち去らねばならないなど、実に豊かな想像力が要求される。もしそれらを怠ったら、「なんで気を付けていなかったのか?」と言われるのがオチだ。

翻って日本はどうだろう。そうした自己防衛意識を全て国や自治体や警察に任せ、もし不備があったらクレームをする。私が被害を被ったのはそっちのせいだと。なんでこんな大きな穴を放置していたのかと。裏を返せば彼らは悪い様にはしないはずとたかをくくっているのだ。だから正面に気を付けないで漫然と運転をしてしまうのだ。日本に居ると、こうした自己防衛センスが劣化する。果たして人としてまっとうな感覚を持っていると言えるのは、いったいどちらの市民なのだろう。

ブラジルのワイルドさや雑さに文句を言ったり愛想を尽かしたりするのがひと段落したら、こんな考え方が浮上して来た今日この頃なのである。