2016年5月12日木曜日

持ち寄り文庫

学級文庫ならぬ持ち寄り文庫である。
サンパウロ市内中心部にある日本食コンビニの、売り場スペース一番奥に、ひっそりとその文庫はたたずんでいる。

駐在員らが、自分が読み終わった本を寄付する。同コンビニ屋号の蔵書印がおされて棚の一角に並ぶ。希望者が買い物のついでに手に取る。レンタルは無料。書類手続きもないしタイムリミットも無いという、なんともありがたい仕組みである。

文庫本が中心だけれど、結構新しい本も持ち込まれたりしていて、同持ち寄り文庫の供給者の層の厚さが窺い知れる。棚は奥の方が取り出しにくいがそれもまた宝探しの様相で一興である。

この文庫によって読む作家の幅が広がった。日本に住んでいた頃も、本屋の平積みの中からジャケ買いすることも無きにしも非ずであったけれど、こちらではそれが加速するのだ。スペース的にあまりゆっくり選んでいられないし、日本の本屋に比べたら選択肢が少ないから、エイヤの必要性に迫られるのだ。第一コストがかからないという気安さもある。

そうした背景があって、色んな作家に触れることが出来ている。
最近の僕のこの文庫の利用法は、これまでの自分なら絶対に手に取らないであろう作家のものを手に取ってみて、自分が変わるきっかけとする、である。

ムンド・ノーヴォ。
サンパウロに着いた時の期待感を表したブログタイトルである。

実際にこの3年間は相当に濃密なものになっていて、人生かつてないレベルに自分が変化した3年間だった。で、その変化をさらに加速させたいと思っている。それを促す触媒なら、どんどん身体の中に取り込んでいきたい。

都会の真ん中の小さなコンビニの一番奥の棚に、変化に繋がる扉が無数に隠されているというのは、パブリックなんだけど自分だけに秘密めいていて、たまらなく嬉しいのである。


やさしくしめてね

『マジかよ、勘弁してよ、オタクの客、俺のクルマを壊す気だよ・・・』などと乗り込んだ瞬間から文句モード全開のタクシー運転手。それは日本人出張者を連れてサンパウロ市内のレストランからホテルに戻るときのことだった。その出張者は後部座席に乗り込む際に、車のドアを強く音を立てて閉めたのであった。冒頭の文句は、運転手が助手席に乗った私に対して放ったものである。

「サンパウロで日系人と日本人駐在員を見分けるにはどこを見ればよい?」
というクイズがある。正解は、「車のドアを閉めるときの強さを見る」である。

かく言う私も、住み始めてすぐのころ、自宅アパートの守衛さんから、『セニョール、おねがいだからこの扉をバーンと投げるように閉めないでください』と言われたことがある。

思えば我々日本人は、半ドアを悪として教えられ、育ってきた。そのため、緩い閉め方や、半ドアになるかもしれないくらいの強さの閉め方では逆に車の乗り手から注意される、そんな雰囲気の中で常識をはぐくんできた。玄関や出入口のドアなどは、だいたいからして人が出入りする場所の扉はそれ用に建付けが頑丈であるからして、また最後まで手を添えた動作が面倒ということもあって、バーンと投げるような閉め方をすることが多い様に思う。油圧でクッションが効いていることもそれを加速させているかもしれない。

この国では、強すぎる力で締めると不具合を起こす可能性のある車のドアがあったり、けっこうなHeavy Duty具合の場所にもわりと貧相な扉が付いていたりする。なので、適切なる力で開け閉めをする必要があるのだ。じっさいに、壊れるかもしれない。

日本人の平和ボケについては良く言われることだけれど、こうしたハイスペックボケとでも称すべき現象も、しばしば目の当たりにするのである。異文化は面白い。