2017年2月25日土曜日

ブラジルで病院に行く


異国の地で病院にかかるのは不安なものです。
私達家族も、通院、入院、手術、検査等に何度もかかり、その都度大変な神経を使いました。
なので、これまで4年弱の経験をハウツーに纏めてみました。
単語帳としても機能する様に書きました。
これから駐在生活を始める方々の不安軽減に少しでも寄与すれば幸いです。

ここではHospital Sírio-Libanêsの例を紹介します。







同病院の救急外来窓口この国でPronto Socorroプロント・ソコーホ』と言います)入口の住所は、
Rua Barata Ribeiro, 387, piso 1 - Bela Vista São Paulo (SP) CEP 01308-050.
であり、病院自体の正門入口とは住所が違いますので注意が必要です。

正門からもPronto Socorroには辿りつけますが、病院内の迷路のような廊下とエレベータを使わなければならないので、最初から直接Pronto Socorroに行かれることをお勧めします。

1. 総合病院の救急窓口(Pronto Socorroと書いてある)へ行く

2. 正面のRecepção(受付)でNREを見せ、Senha(番号札)を受け取る

3.上記が終わって待合で待っていると、別のパネルに同じSenhaが表示される。今度は受付向かって左手にあるPronto Atendimento①もしくは②の部屋に入る(病院によってはTriagemと書かれていることもある。ここでは、重症度によって患者の緊急度合いに優先順位を付け以降の流れを振り分ける目的で、看護師による事前スクリーニングが以下の点について行われる。

・今の症状を聞かれる
 いつから症状は発生しているか、現在薬は服用しているか、など
(熱Febre、傷みdor、痙攣convulsão、咳tosse、腹痛dor de barriga、頭痛dor de
 cabeça、吐き気nausea、嘔吐vomito、骨折したquebrou、転んだcaiu、打った
bateu)

 日本から持って来たバファリンを服用している場合、一般名である「パラセタモル」と答える。
 なお、この国の解熱鎮痛剤ではNovaginaなどの「dipirona」系がメジャー。
 
・体温を測る
・指先にクリップを挟んで脈拍を計る
・血圧を測る
・既往歴を聞かれる
・痛みのレベルで言うと1~10(10が最も強い)のどれにあたるかと聞かれる(遠慮しないでここでは8~9くらいに答えて構わない。これによって何かが大きく変わることは残念ながらあまりないのだけれども。)
・かかりつけの医師はサンパウロに居るか?と聞かれる
・待合で待てと言われる

4. パネルでSenhaが表示されたら、向かって右手のcadastro(登録)へ行く
ここでは全てのプロセスのスタートとなる初期登録を行う。
聞かれる内容は以下の通り

・住所、電話番号、CPF、RNEなどの基本情報
・Convenio Médico(医療保険)はと聞かれるので、ブラジル国内の医療保険があるならそれを伝える。そうではなく一旦立替払いで後日日本の保険会社に請求するというケースでは(Particular=パチクラウ)と答える。このプロセスは病院側の財政管理上とても大切である為、重視される。
※ちなみにSírio Libanês病院はクレジットカードが使えます
・同意書にサインさせられる。数か所。
・患者の腕にIDとなる紙ベルトが巻かれる
(次は名前で呼ぶからと登録作業をしたのと同じ空間で待て言われSenhaはこれ以降使わない
・一番奥に子供を遊ばせることの出来るスペースがあるので親が病気で子供は元気などというときには大いに役に立つ。しかしながら塗り絵程度のものしかないので、家からおもちゃを持参すると尚良い。

5. 名前で呼ばれ、診察室に入ると医師が待っている。
ここで気を付けたいのは、上記Pronto Atendimentoの部屋で看護師に伝えた今の症状などは、いっさい共有されていないということ。なので、全く同じ質問が2度繰り返されることになるが、イライラしないで同じ受け答えをしよう。

・けが          ferimento
・炎症          inflamação
・腫れ          inchação
・腎臓結石    pedra nos rins
・盲腸          apendicite
・結膜炎       conjuntivite

・医師     médico(女性ならmédica
・看護師       infermero(女性ならinfermera
・超音波   ultrason
・レントゲン   raio-x (ハイオ・シースと読む)
・CT-Scan   tomografia
・MRI           resonância magnética

6. 検査や点滴などをしてもらう場合には、別の部屋に移動するよう、指示される。ここでも結構な待ち時間がある。

・点滴          soro(soroには生理食塩水という意味もあるが、略式用法として点滴としても使われる)
・抗生物質      antibiótico

 ※点滴の際、空調が効いているので寒くなる。毛布はcobertor。
 ※個室の電気をつけるか消すかと聞かれることもある。つけるacsender、消すapagar。

7. 薬が必要な場合、医師が処方箋を書いてくれる(いまどきなんと手書き!)ので、それを外部の民間の薬局で購入する。抗生物質がある場合、処方箋は2枚必要で、一枚には受け取り手の詳細が記載され、薬局保管となる。身分証明書の提示も必要。

・錠               comprimido
・滴               gota

※こちらの抗生物質で面白いのは、粉が空のボトル(frasco)の中に入っているだけというのがある。それに一定量の水を自分でくわえて水溶液を作り、それを都度振りながら必要量出して飲んで行くというなんとも変わったものなのである。また、そもそも日本の様に調剤薬局というような場所は無いので、基本的には市販の医薬品を箱ごと買い、飲みきらなかったら捨てる、というような形式です。

※小児の医薬品は液体のものが多く、医薬品の箱の中に付属の注射器型のスポイトで吸い上げて口に投与するという形である。

※濃縮型の液体医薬品(solução oral)だと、体重1520kgの小児は15滴、60kg以上の大人は50滴、などと言う様に、少量の水に溶かす際に自分でポトポト落ちる液体を数えていなければならないものもある。

8. 再診 (retorno)
その日救急に詰めていた医師が再診を求めることは無く、基本的に救急外来は救急外来であくまで緊急措置だけを行うところだと。根底には人々はかかりつけ医に月金の営業時間内にかかるべきものという一般通念があります。

ただし手術などした場合には、さすがに経過観察の為の再診が必要となり、その場合当直の医師個人のクリニックに出向かなければならない。

ここでブラジルの病院経営形態について説明しなければならないのだが、医師はみなアウトソーシングである。病院勤務医は居らず、みな外部から契約の形でその場に詰めている。であるからして、再診の場は医師の個人クリニックなのである。

もともと医師の指示によりじゃぁ2週間後に予約電話してからココに来てねと言われ、電話でアポを取り、再訪するも、医師が「えーと、なんだっけ?」みたいなところから始まって、2週間前にSirio Libanes病院で手術してもらった○○で、再診ですみたいな説明を自分からしなければならず、挙句の果てには「ま、あとはかかりつけのドクターとよろしくやってね」みたいなことを言われる始末。受診料もしっかりお取りになります。

9. 病院名
今回例示のSírio Libanêsに加えて同じように一通りの診療科のラインナップが期待できる病院は以下の通りです
・Hospital Alemão Oswaldo Cruz (Rua Treze de Maio, 1.815 - Bela Vista, São Paulo)
Hospital Santa Cruz (R. Santa Cruz, 398 - Vila Mariana, São Paulo)・・・日本語可能
Hospital Nipo Brazileiro (R. Pistóia, 100 - Parque Novo Mundo, São Paulo)・・・市中から遠いがENKYOの本部である。土日はローカルの住民でごった返している。

10. 費用
最後に決済して帰ります。営業時間内だと会計部門(caixa)が空いていますが、そうでない場合は後日e-mailもしくは郵送で請求書(boleto)扱いとなることもあります。この点は病院によりマチマチです 
Sírio Libanêsクラスの病院だと、手術して個室に一泊すると百万円単位の請求が来るので、支払いがParticularの人はクレジットカードの限度額設定に余裕を持ちたいところです

11. 時間軸
わりとかかります。
たとえば副鼻腔炎でPronto Socorroにかかった場合、診察して血液を採って薬品を注射してCT撮って結果待って最後の診察して、というプロセス。この場合空いている平日で、正午に行って全て終わるのが19時といった時間軸です。

しかし他のクリニックに行くよりは大分ましです。というのも、Hospital Sírio Libanêsレベルだと自らの病院内に全ての検査機器が整っているからです。クリニックだと医師が診察して、はい、この検査はあのラボで、結果出たら後日それをもってまた来てください、となるので。それよりは大いに早い。ただし費用が高いというtrade offになっている訳です。

■ご質問・・・サンパウロ駐在員の方で病院関係でもしお困りのことがあればこのブログプロフィールにあるアドレスに email 下さい。

2017年2月21日火曜日

神の見えざる手とキャッシュレス社会

■キャッシュレス社会

治安の問題が常に隣り合わせのブラジルでは、現金を持ち歩きたくないニーズが高い。
その昔は小切手を使った決済が割とメジャーで、いまではかなり進んだカード社会だ。
つまり世の中のキャッシュレス化が、もともと進んでいる。

そのことが引き起こすメンタリティとして、事業者の価格改定に関するハードルの低さがあると着目したので今回記事にしてみたい。

■宿命づけられたインフレ
ブラジルでは労働法(1943年)により、全ての労働者の賃金はインフレ率を反映させて毎年上昇させることが決められている。また、家賃契約にも、インフレ率を反映させることが明記される社会である。これらにより、消費者のマインドは値上げに対する抵抗が低い。

また、関税障壁、非関税障壁ともに高く、新規参入が容易ではなく、安い輸入品などの流入チャンスも制限されている。すると、産業のそこかしこに一強他弱の構図が生まれ、プライスメーカーが値段を釣り上げていくことを可能たらしめている。

賃金は毎年自動的に上がる、モノの価格は上がり易い、下をくぐって参入する新興勢力の登場機会は制限されている・・・。つまりモノやサービスの価格が下がる要因が極めて少ない構図になっているのである。

■神の見えざる手
という社会状況があると、事業主体の行動に面白い現象が観察されるようになる。
彼らは、価格のアゲサゲを比較的容易に行うことができるのである。

一般に、現金決済と違い、キャッシュレス決済だと、人は端数に頓着しない。
たとえばとある商店が12レアルのものを明日から3%値上げしようと12.35レアルにすることは、あまり抵抗感無く受け入れられる。それによって消費者が失望して離れるということは、あまり考えにくい。なので商店はしばしば少なくない頻度で値上げをしてくる。消費者としても「チョイチョイ来てるな」とは感じるものの、カードだし目立たないから受け入れることに慣れている。この点、競合サービスが市中に溢れ返っている日本とは大きく違う感覚だ。

ただし最近面白い現象が起こった。
会社オフィス周辺にアラメダサントスという比較的洒落た通りがあって、ポルキロ(以前『焦らして野菜を』の回で紹介)という量り売りランチ店も洗練されたお店が4つも軒を連ねている。それぞれ特色があるのだが、価格レベルはキロあたり7090レアルという押しなべて強気なものであった。普通のサラリーマン男性のランチで、通常45レアル(約1,630円)あたりは行く勘定だった。・・・考えてみれば高級なランチである。

ところがである。

その4軒の中でも上位2つのお店が、突然39レアルキャップ制を敷いたのである。
つまり、一皿39レアル以上取ってもお会計は同じですよという訳だ。この強気のブラジルで、珍しく実質値下げを見たなぁと思っていたら、ほどなくして残りの2軒も競うようにして同様の価格改定を始めたのである。機敏な動きである。隣人を見ていない様で、実はよく見ていたのだなと感心した出来事だった。

需給バランスを映して価格に反映させる。
本来サービス供給者が機敏に行うべきアクションが、ブラジルでは容易に実現出来るのだというのが見て取れた。ブラジルの事業者は、今まで値段を上げるだけだと思っていたのだが、下げることもする。キャッシュレス社会も追い風となって、値段のアゲサゲは自由自在なのである。

■日本のモノの価格
翻って日本はどうだろう。
価格を上げることは悪とみなされていないか?というより、それを悪と思い込んで値上げに挑戦するのを諦めている事業主体が多すぎはしまいか?そして消費者も、値上げしやがってけしからん、という一本調子のメンタリティが多すぎないか?

例えば東京ディズニーランドの入園料値上げについての批判。
オリエンタルランドとしては人的リソースのキャパやサービスレベルの維持などを勘案して値上げする判断をしたはずであるから、値上げで脱落する一見客や価格連動層を排除できる既存客としては歓迎すべき流れであったと思うのだけれど、そうした論調は少なかったと見ている。

20年続いているニッポンのデフレの主犯格は、この安かろう良かろうメンタリティではなかったのか?

隙あらば値上げをして利潤の拡大を図ろうとするアクションは、もっと多く見られて良いはずだし、その結果を受けてやっぱり戻しますなんて動きだってあっても良いはずだ。何でもかんでも安くなきゃいかんという日本の状況は良くないと思うし、それに果敢に挑む事業主体が出現すべきだと思う。

一方で受ける消費者側も、肥えた目で質の良いモノやサービスを提供する企業を購買行動で応援すべきだ。そうしないと企業の利益も増えず、オトーサンの賃金も上がらない。スパイラルが断てない。

だがSuicaなどの決済が進めば、例えば3円の値上げなど、割と抵抗感低く受け入れられることになりはしまいか。


治安面の不安が牽引したブラジルと違って日本では電子マネーの利便性が牽引役となってこれから進行していくであろうキャッシュレス社会。この動きが日本の(というよりニッポン企業の)値段政策を適正に誘導してくれる可能性を、見出した次第である。