買いたいのですけど何が良いですかねぇ、と相談を受けることがままある。
相手は僕がブラジルでコーヒー関連の仕事をしていると知ってのことである。
これに対して相手が期待する返答をするのは、本当に難しい。
質問者が期待しているのは、
「スーパーで売っている○○というブランドが良いですよ」
「あそこの通りの△△というカフェで挽き売りしているのがお土産に最適です」
というような簡単な答えのはずだ。
でも話はそんなに簡単じゃない。なのでコーヒーについて少し立ち入った説明をする必要が出てくる。するときまって相手方は、「聞いてはいるが腑に落ちない感満載」の顔になる。これは両者にとって大いなるストレスだ。
なぜ簡単じゃないかを語るには、そもそも良いコーヒーとは?についてひも解かなければならないだろう。この回ではこれからブラジルに駐在する人やそのご家族が、誰でも簡単にわかるような平易な言葉でまとめてみたい(平易なコトバであるから、多くの説明を端折っていることは、同時にご理解頂きたい)。
1. 良いコーヒーとは?
コーヒーは嗜好品であるからして、『あなたの好きなコーヒーが良いコーヒーです』というのが答えだ。でも土産物を選ぶ時には、物差しを持つのは購入者であるアナタではなくて、贈る相手になる。そこに今回の探し物のむずかしさがある。
話を分かりやすくするために、今回の良いコーヒーの定義を『世間一般の平均チョイ上の嗜好を持つニホンジンに、広く受けるブラジルならではのコーヒー』と設定し、これからの解説を進めていくことにする。
2. 世界最大のコーヒー生産国であり二番手の消費国であるブラジル
ブラジルは世界最大のコーヒー生産国であるというのはわりと広く知られている。で、そのブラジル産コーヒーの品質的なポジショニングはと言えば、中庸でそこそこなレベルで、国際的な取引価格は、相対的に安い*。農地が大規模で生産効率が良いからだ。
*勿論例外もあり、ブラジルでも世界最高級のコーヒーを生産する農家も出てきている
大量に農作物を作れば、そりゃスソモノも出てくる。ブラジルのコーヒー消費が多いのは、キズモノや曰くつきの作物を自国で飲まなきゃいけないから、宿命として増えたのだ。その発明品が、「カフェジーニョ」(『カフェ・コムン』とも)として知られる飲み方。欠けマメや不良マメなどをかき集めた素材の持つ悪い味が消えるように深く濃く焙煎し、さらに抽出効率が良くなるように細かく粉砕、布フィルターで大量に抽出して予め砂糖を大量に投入したもの、これがブラジルの伝統的な飲み方だ。液体は濃いので多くは飲めない。なのでブラジルのコーヒーカップ(シーカラ)は小さいのだ。
というわけでブラジルのスーパーで売られている廉価コーヒーブランドの大部分は、こうした伝統的飲み方用に設計されている為、日本人の舌には合わず、今回の探し物にはマッチしない。
3. エスプレッソとドリップコーヒー
『ブラジルのコーヒーは濃いよね、あれってエスプレッソってこと?』というのも良く聞かれる質問である。もしそれがカフェジーニョを指しての質問であったなら、答えはNoである。
ドリップコーヒーとは、日本人がよく慣れ親しんでいる、紙フィルター(布もアリ)にコーヒーを入れて、上からお湯を注いで重力に任せてお湯の落下を待つ抽出方法を指す。
エスプレッソとは、金属フィルターに粉を閉じ込めて機械にセット、マシンの作り出す蒸気圧力によって無理矢理パワープレイでお湯をコーヒーに通過させ、抽出したものである。
冒頭の問いに対する答えがNoだったのは、ブラジルの伝統的カフェジーニョは布フィルター抽出によるドリップコーヒーだからである。
4. ブラジルにおけるエスプレッソ文化の進展
ここからがややこしくなるのだが、ブラジルでは今、エスプレッソが大いに進展している。レストランでは、カフェジーニョなら金はとらないが、エスプレッソなら金を取るという形態がほとんどだ。また、Nestle社のカプセルコーヒー製品Nespressoはブラジルで大成功している。
もともとカフェジーニョで味が濃く量の少ないコーヒーの飲み方に慣れたブラジル人が、経済的にある程度発展して次により良いコーヒーを探すとなった時にちょうど良い存在だったのがエスプレッソであったという訳だ。エスプレッソ文化を発明したのはイタリア人だが、ブラジルのイタリア移民と言えば最大派閥であるのでそれも後押しした。
であるからして、ブラジルで巷に広く見かけるコーヒー製品は、安いものはカフェジーニョ向け、高いものはエスプレッソ向けに商品設計されているケースが多いのだ。日本人はエスプレッソにまだまだなじみが薄いので、ブラジルにおけるコーヒー製品の上流・下流ともに、遍くニホンジンに受ける土産物としては最適でないということが言えるのだ。
5. 世界基準でのものづくり
ではどうすればよいか?
ブラジルのコーヒー農園で、米国市場や日本市場、その他広く海外の市場のニーズを理解しているところの作る製品を選べばよいということになる。こうしたところは、紙フィルターを使ったドリップコーヒー向けのコーヒーもラインナップとして持っていたりするのだ。
例えばDaterraというミナスジェライス州にあるコーヒー農園とサンパウロ州のコーヒーメーカーが協業して作っているこの商品。
https://www.nossacasacafe.com.br/cafe-sweet-collection
焙煎は適度に浅く日本人好み。
日本人が親しんだフィルタードリップに適した粉砕なら「French Press」を選択すれば良いし、ご自宅にコーヒーミルをお持ちの方向けには「Grão」つまり豆のままを選択。
250gパッケージに入ってサイズ感もお手頃と来ている。
通販でしか買えず、かつオーダーを受けてから焙煎するので、1週間~10日の余裕を持ちたいものである。
ふぅ。
これからサンパウロでコーヒー土産に関する質問を受けたら、このページを見て下さいと答えることができるゼ。
相手は僕がブラジルでコーヒー関連の仕事をしていると知ってのことである。
これに対して相手が期待する返答をするのは、本当に難しい。
質問者が期待しているのは、
「スーパーで売っている○○というブランドが良いですよ」
「あそこの通りの△△というカフェで挽き売りしているのがお土産に最適です」
というような簡単な答えのはずだ。
でも話はそんなに簡単じゃない。なのでコーヒーについて少し立ち入った説明をする必要が出てくる。するときまって相手方は、「聞いてはいるが腑に落ちない感満載」の顔になる。これは両者にとって大いなるストレスだ。
なぜ簡単じゃないかを語るには、そもそも良いコーヒーとは?についてひも解かなければならないだろう。この回ではこれからブラジルに駐在する人やそのご家族が、誰でも簡単にわかるような平易な言葉でまとめてみたい(平易なコトバであるから、多くの説明を端折っていることは、同時にご理解頂きたい)。
1. 良いコーヒーとは?
コーヒーは嗜好品であるからして、『あなたの好きなコーヒーが良いコーヒーです』というのが答えだ。でも土産物を選ぶ時には、物差しを持つのは購入者であるアナタではなくて、贈る相手になる。そこに今回の探し物のむずかしさがある。
話を分かりやすくするために、今回の良いコーヒーの定義を『世間一般の平均チョイ上の嗜好を持つニホンジンに、広く受けるブラジルならではのコーヒー』と設定し、これからの解説を進めていくことにする。
2. 世界最大のコーヒー生産国であり二番手の消費国であるブラジル
ブラジルは世界最大のコーヒー生産国であるというのはわりと広く知られている。で、そのブラジル産コーヒーの品質的なポジショニングはと言えば、中庸でそこそこなレベルで、国際的な取引価格は、相対的に安い*。農地が大規模で生産効率が良いからだ。
*勿論例外もあり、ブラジルでも世界最高級のコーヒーを生産する農家も出てきている
大量に農作物を作れば、そりゃスソモノも出てくる。ブラジルのコーヒー消費が多いのは、キズモノや曰くつきの作物を自国で飲まなきゃいけないから、宿命として増えたのだ。その発明品が、「カフェジーニョ」(『カフェ・コムン』とも)として知られる飲み方。欠けマメや不良マメなどをかき集めた素材の持つ悪い味が消えるように深く濃く焙煎し、さらに抽出効率が良くなるように細かく粉砕、布フィルターで大量に抽出して予め砂糖を大量に投入したもの、これがブラジルの伝統的な飲み方だ。液体は濃いので多くは飲めない。なのでブラジルのコーヒーカップ(シーカラ)は小さいのだ。
というわけでブラジルのスーパーで売られている廉価コーヒーブランドの大部分は、こうした伝統的飲み方用に設計されている為、日本人の舌には合わず、今回の探し物にはマッチしない。
3. エスプレッソとドリップコーヒー
『ブラジルのコーヒーは濃いよね、あれってエスプレッソってこと?』というのも良く聞かれる質問である。もしそれがカフェジーニョを指しての質問であったなら、答えはNoである。
ドリップコーヒーとは、日本人がよく慣れ親しんでいる、紙フィルター(布もアリ)にコーヒーを入れて、上からお湯を注いで重力に任せてお湯の落下を待つ抽出方法を指す。
エスプレッソとは、金属フィルターに粉を閉じ込めて機械にセット、マシンの作り出す蒸気圧力によって無理矢理パワープレイでお湯をコーヒーに通過させ、抽出したものである。
冒頭の問いに対する答えがNoだったのは、ブラジルの伝統的カフェジーニョは布フィルター抽出によるドリップコーヒーだからである。
4. ブラジルにおけるエスプレッソ文化の進展
ここからがややこしくなるのだが、ブラジルでは今、エスプレッソが大いに進展している。レストランでは、カフェジーニョなら金はとらないが、エスプレッソなら金を取るという形態がほとんどだ。また、Nestle社のカプセルコーヒー製品Nespressoはブラジルで大成功している。
もともとカフェジーニョで味が濃く量の少ないコーヒーの飲み方に慣れたブラジル人が、経済的にある程度発展して次により良いコーヒーを探すとなった時にちょうど良い存在だったのがエスプレッソであったという訳だ。エスプレッソ文化を発明したのはイタリア人だが、ブラジルのイタリア移民と言えば最大派閥であるのでそれも後押しした。
であるからして、ブラジルで巷に広く見かけるコーヒー製品は、安いものはカフェジーニョ向け、高いものはエスプレッソ向けに商品設計されているケースが多いのだ。日本人はエスプレッソにまだまだなじみが薄いので、ブラジルにおけるコーヒー製品の上流・下流ともに、遍くニホンジンに受ける土産物としては最適でないということが言えるのだ。
5. 世界基準でのものづくり
ではどうすればよいか?
ブラジルのコーヒー農園で、米国市場や日本市場、その他広く海外の市場のニーズを理解しているところの作る製品を選べばよいということになる。こうしたところは、紙フィルターを使ったドリップコーヒー向けのコーヒーもラインナップとして持っていたりするのだ。
例えばDaterraというミナスジェライス州にあるコーヒー農園とサンパウロ州のコーヒーメーカーが協業して作っているこの商品。
https://www.nossacasacafe.com.br/cafe-sweet-collection
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| ↑Nossa Casa Cafe社通販サイトの商品ページ |
焙煎は適度に浅く日本人好み。
日本人が親しんだフィルタードリップに適した粉砕なら「French Press」を選択すれば良いし、ご自宅にコーヒーミルをお持ちの方向けには「Grão」つまり豆のままを選択。
250gパッケージに入ってサイズ感もお手頃と来ている。
通販でしか買えず、かつオーダーを受けてから焙煎するので、1週間~10日の余裕を持ちたいものである。
ふぅ。
これからサンパウロでコーヒー土産に関する質問を受けたら、このページを見て下さいと答えることができるゼ。
