2020年3月19日木曜日

会社設立から1年


ちょうど一年前の318日に、会社を立ち上げてブラジルのポルキロレストランを展開するハコを作った。が、いまはこのノビダージ(株)は、休業中である。

会社を設立してプロジェクトを作成し、いろんな人や金融機関を巡り金策を重ねること4ヶ月、そうこうしているウチに自分の中で大きくなったクエスチョンに向き合うために、計画を一旦サスペンドとして、副業で修行アルバイトに入ったのが9月。

今宵62回目の勤務を終えて、いまこれを書いている。走りながら考える中で、いろんな気付きがあったので、ここに書き記しておこうと思う。

バイトエントリー
最近はアルバイトの募集もwebフォームで構築されており、必要事項を記載して、備考欄に『自分の夢のための修行をしたいから雇ってもらいたい。金もポジションも問いません』と書いてエントリーするも、なしのつぶて。LINEでも口が用意されていて、そちらでも情報を送信するも、同様に何も連絡が来ない。

1週間待ち、チェーンの内のひとつの店舗に電話するも、年齢と経験を聞かれて一旦保留、電話口戻ってきて要りませんでバッサリ門前払い。そりゃそうだろうと。42歳、飲食の経験なしと言うややこし物件、誰が取るというのか。だが少なくとも自分としては、英語とポルトガル語がビジネスレベルに出来ますよと、これだけはアピールしたいのだがと思いつつ、それはこの電話口じゃないと判断し、担当氏の名前を聞くだけして、電話を切った。

翌日、開店前のその店舗に押しかけて、昨日お電話で○○さんと会話した者です。不要と言われましたが、履歴書だけは見てもらいたくここに来ましたと。しばらくするとミーティングを終えたそのご担当の方がいらして、最後のアピールをするも、どうやら本当にアルバイト人員は足りているとのことであり、丁重にお断りをされる。ただ最後に、同じ系列の他の店舗であれば、空きがあるかもしれません。アルバイトの調達は各店舗独立でやっていますから、ご確認頂くのはどうでしょうか?とのこと。

■直談判
その日その足で、ランチ営業後の時間を見計らって別の店舗へ。
閉店後のお店のPCとにらめっこしながら事務作業をしていた店長風の男性が対応して下さり、かくかくしかじかで面接をお願いしたい者ですと伝えると、『webエントリーはされましたか?』と聞かれ、はいと答えると、システムを覗き込み、『なるほど、夢の為に修行ですか(ニヤリ)、ちょっとお待ちください』と奥に入って誰かと話してくれている様子。なんだよ、webエントリー機能してんじゃんなどと思いつつ、やはりややこし物件だから折り返しの連絡がなかった訳だ。そりゃ無理もないわな、などと思いつつしばらく待つと店長風氏戻って曰く、『20分待って頂ければ支配人が即面接出来るとのことです。お時間ありますか?』と。
『もちろんあります、ありがとうございます。』と言うことで20分後に面接開始と相成った。

面接
その支配人はwebsiteに経歴が載っている有名な方で、その記事を事前に読んでいたのでその人が面接してくれたことが嬉しくなった。こちらとしてもこのお店で採用してくれなければ本業職場と自宅との距離感から言って、そもそもの修行バイト自体が厳しいものになるから、これは久々の真剣勝負である。

『想いはわかりました。ただ、ウチの現場は20代ばかり。謙虚に指示に従えますか?現場の人間は単なる使いにくいオッサンと見るかもしれませんよ、厳しいですよ。』
『相当の覚悟を持ってここに来ているのはこの私を見て頂ければ。あとは結果で示したいと思います。』
『なるほど、わかりました。採用しましょう。タケイさんの目的を考えると、厨房とホールの両方のエッセンスが吸収できるあのポジションが良いでしょう』
『ありがとうございます。』
『最後にタケイさん、ウチに何をもたらしてくれますか?』
『二つあると思っています。一つには対顧客、日英伯語によるhospitality、二つ目には内部的に組織作りの経験からムード向上』
『そこまで自信を持って言ってもらえたら楽しみです。再来週からお会いしましょう』

面接は10分程度で終了。
あとでわかったのは、最初にニヤリと繋いでくれた方は1976年生まれで僕と全く同い年だった為に、他人事とは思えず、門前払い出来なくてとりあえず支配人に繋いでくれたのだと言う。伝わる人には伝わる。熱意を持ってストレートにぶつかって本当に良かったと。

■SNS使用に関するガイドライン
アルバイトの雇用契約には、ソーシャルメディア利用に関するガイドラインが定められていて、それを守ることにサインをさせられる。昨今のバイトテロを考えるとなるほどの企業側対策であり、勉強になるノウハウであった。

バイト仲間
大学生、フリーターと、ブラジル料理ということでブラジル人が中心だが、意外にもスリランカおよびネパールの方も多い。

入店直後に指導を受けたのは25歳のチーフで彼はこの店5年の経験者(途中、自分のお店を開業、1年弱で撤退の判断をしてまた戻るという経歴の持ち主)。このチーフに食材の管理・調理・提供の仕方、サービスの極意に至るまで、隅々までご指導いただくことになる。彼は私をよく観察し、分析し、的確なる目標を与えてくれて、褒めてくれつつ、常に厳しさを持ってアドバイスをしてくれた。まさに現場のプロであり、いまも多くのノウハウを授けてくださる、私の師である。

また、二人のブラジル人とポルトガル語で会話しながら指導を受けることが出来たのは、彼らが日本語で話すことを学ぶよりはるかに深い理解へとつながり、これはまさに駐在経験の賜物であった。それ以外にも20代学生さんでシフトでよく会う方、スリランカの同僚に多くを教えてもらった。ポジション違いの仲間との立ち話や、後半流動的にヘルプで入る洗い場で出会う方々など、実に多くのメンバーと会話することで、飲食店で働く人々の思い、生活背景などに対する理解が深まった。

現場はノウハウの伝授の多くが口伝であり、指導者によってやり方やモノサシが微妙に違ったりしていて、同じことをしてもOK/NGが変わることもしばしば。そもそも、アウトプット自体がアート(提供するお食事にしても、仕込みにしても、現場の清掃作業にしても、それはアートである)なので、マニュアルでおいそれと伝えられるものではない。

それらを含みながら、柔軟に仕事をして、自らの成長に結びつけるプロセスをこのタイミングで経験したことは大いに学びとなるものであり、雇用側としてもこれは活かせるものと確信している。

コロナ禍
当時はオリンピック前の開店を目指してプロジェクトを描いていたが、年始から始まったコロナ禍のインパクトを見るにつけ、ああ、あれはあのタイミングではなかったのだというのをまざまざと見せつけられた。しかも飲食店が受けるインパクトの大きさを、中の人として見つめることが出来た。危機に遭遇しなかっただけでなく、恐ろしさをつぶさに観察できる場所にいたというのは、考えてもいなかった副業効果であった。

新店舗オープン
アルバイトに入店してから3ヶ月ほど経ったとき、都内に同系列の新店舗がオープンするのだという情報を得た。そこのオープニングスタッフとして赴かせて欲しいと件の支配人さんに申し入れして、了承をいただいた。そして来月店舗へと異動する。

仮にこの新店オープンが、昨年の私の入店すぐだったなら、自分自身使い物にならないので手も挙げられなかっただろう。

しかし入店から半年たったところでのこの話である。ラッキーであった。開店プロセスをつぶさに眺めて自らのノウハウとしたい。
これから目の当たりにする全てのことが、自らの店舗を始める際に、資本力やスケールこそ違うけれど、きっと参考に出来ることが多いはずと期待する次第。

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ってなわけでこの先は(というかこの先も)走りながら考えるつもり。
実際に手がけることも、ポルキロにこだわらずに、他の様々な業態でのスタートも考えてみようと思っている。

やりたいことは、このニッポンの社会にブラジルの風を運ぶことなので。

2020318