今日朝一発目の面談は、少しナーバスな内容の客先訪問だった。僕と同僚の足取りは決して軽いものではなかった。10時アポに向けて会社を出た僕達は、丸ノ内線、銀座線と地下鉄を乗り継いで虎ノ門駅を目指した。
朝9時台の車内は相当混んでいて、とくに銀座線の混雑はかなりなものであった。悪いことにあの路線は右に左にと出口が変わるから、その度に民族大移動みたいな混乱が発生するのに乗客は皆辟易としていた。
そんな中、虎ノ門駅に着いて我々が降りようとした時、事件は起こった。
外国人のビジネスマン風の男性が、一人乗っていたのだが、その彼が一旦降りて道を開けることをせず、逆に車内奥の方へと逆行する動きをしていて、我々はその横を通り過ぎて降りたのだけれど、背後で怒声が聞こえてきたのだ。
『さっさと降りろよコノヤロウ!!!』
かなり大きな、怒鳴り声だった。
それを受けて振り向いた外国人の彼の悲しそうに驚いた顔は、忘れられない。
海外で暮らすことは、それだけで大変なことなのだ。わからないことだらけで、日常生活を送るだけで見えないストレスが蓄積するのだ。そんな彼にわざわざ投げなくても良い礫を投げるその非情な所業に、強い寂しさを感じた。
怒鳴った人は、道を譲るのが当たり前のマナーと言いたいのだろうか。でも、当人に悪気があってのことかどうかは、見ればわかるものだ。発言者が自らのストレス発散に充てたとしか見えない行いだったと思う。
これから臨む面談へのナーバスさを膨らませぬよう、僕らふたりはそのことを互いに話すことはせず、曇天の下会場への道を進んだ。