11階から下に降りるエレベーターを待っていた。11階は、このビルの最上階である。ボタンを押してほどなくして、目の前の筐体のランプが点灯したのでそこで待っていた。すると私の後ろに若い男性が立ち、同じくエレベーターの到着を待つ格好になった。
3機あるそのビルのエレベーターの、1番右は貨物用であり、独立系統での運用がされており、私の目の前の筐体が到着予定(ランプ点灯中)であっても、突然その貨物用が着いたりすることもしばしばあったりする。今日もその展開となり、貨物用が到着、若い男性氏はするするとその貨物用に吸い込まれていく成り行きと相なった。
貨物用が着いてその扉が開くとほぼ同時に、私の目の前の筐体がまさに到着する予定であるという事を示すランプ点滅モードに切り替わった。そのため、私は男性氏に私は目の前のこれに乗ります、あなたは先にどうぞというポーズを示し、彼も恐らくそれを理解して貨物用の扉を閉めた。
その時の私の心理としては、今まで待っていた目の前の筐体から咄嗟に貨物用に切り替えることを厭う気持ちが4割、若い人が急いでいる雰囲気だったので、その彼を一瞬でも止める事に遠慮する気持ちが4割、最後の2割は、その一瞬で決断する事をただ放棄したい、方針転換を決める事自体が面倒だ、というズボラな思いが占めていた。
そして、乗ってみて思い出した。貨物用は、ことほどさように独立運用がされているので、11階で突然停まった様に、えてして他の階でも同様に感度良く停まりがちだったなと。するってーとなにか、急いて先発便に乗った若人は、2割ズボラ・4割思考停止の45歳氏に到着時刻で敗北するということになるのか、と。
まったく人生、わからないものだなと。かくしてズボラ氏は、勝ち誇る感じにならぬ様(ま、そもそもこんな事をウダウダ考えている時点で誠にしょうもない訳だが)、先に到着した後1階のホールを先回りしてそれとなく物陰に隠れ、若人氏の到着と歩き去る後ろ姿を見届けたのであった。しかし若者のアクションは否定されるべきものでは無い。一方のズボラ氏の6割は消極的姿勢が占めていた訳で、なにも褒められたものでは無い。結果論、勝敗がついただけのことだ。
恐らく自分は過去の似たシーンでどちらの立場も体験しているはずだが、その結果を眺めることは極めて少なかったはずだ。そもそもどの時点で「勝敗」を切り取るかも重要なポイントになるし、もっと言うと、それは「勝敗」なのか?という疑問にもぶち当たる。
そうか、つまり、だから人生はわからないし、面白いものなんだ、というわかった様なわからない様なことを自分の中の結論めいたものとして、次の予定へと急ぐズボラ氏であった。