2014年2月8日土曜日

愉快なポルテイロ

マンションのセキュリティ上、この国には必ずポルテイロがいる。ポルテイロとはつまり門番で、遮光されたガラスの内側に常駐している人たちで、徒歩であっても車であっても、入出場には必ずこのポルテイロを媒介としたドアの開閉作業を経なければならない。

そのドアはだいたい二重構造になっていて、一枚あけてもらって中間地帯にまず入場、一枚目を閉じると二枚目を開けてくれて中に入れる。すべてポルテイロの手作業であるからして、実にうやうやしいというか時間がかかる。たまにポルテイロが寝ている(本人たちは否定するが)と、気が付いてもらえずにインターホンみたいなもので呼びかけなければならなくなったりして、さらに手間がかかる。

車でも住人はリモコンを持たされていて、外からリモコンを押すとポルテイロがカメラでナンバーと運転者を目視確認、手動でシャッターを開けるという流れだ。もちろんシャッターは二枚構造で、一枚目の開閉の段階で問題を認めた場合、二枚目を開けないという選択肢が残されている寸法だ。リモコンを押すと自動で開くわけではないところがミソだ。サンパウロではカージャックされた住人が銃口を向けられたまま自分のマンションの地下駐車場に誘導され、犯人が侵入、その後マンション全体が根こそぎ強盗に遭ったという事例などがあるらしく、こうしたセキュリティシステムが一般的になっているという。

家具の納入業者や引っ越し業者なども、身分証明書の提示をしてポルテイロが登録処理をする。その後、内線電話をかけて住人の入場承諾を経なければ上がれないという仕組みである。オフィスビルでも初めての人間は面倒な登録作業を経なければ入ることが出来ない。日本でもこうした仕組みは多数存在するが、どうもブラジルではより手がかかる形式になっているような気がしてならない。そしてこうしたシステムが完全に防犯に役立っているかと言うとそうでもない気がしたりする。。。

ま、いずれにせよ、住人とポルテイロ達との接点は非常に多くなり、従って日常的な挨拶、立ち話は多くなるという背景がある。普段は遮光ガラスを通しての挨拶や会話になるので、向こうの顔は見えない。交代時にばったり顔を合わせたりしない限り、こちらは向こうの顔を認識できないのである。向こうはエレベーター、廊下にある監視カメラで全てこちら側の様子を見ているのでよくわかっているのである。ウチの物件には4人のポルテイロ+支配人的なジェラドールの5名シフトで回している。

そんな中、ある日聞きなれない声がしたので誰だと聞くと、新入りだという。名前を聞くとハイ・ムンドというらしい。よろしくハイ・ムンドと言って別れたのだが、元気がなく声の小さい人だったので、えらく暗いヤツが入ったものだ、他のみんなはものすごく元気な職場だから、アイツ大丈夫かなと思った。それから1週間、ちょくちょくハイ・ムンドの勤務時間に出くわして、相変わらずの元気の無さだった。

暫くしてジェラドールのエジバン氏が居たので捕まえて、おい、新しいハイ・ムンド、元気がないんじゃないの?大丈夫か?なんて軽く聞いたところ、『そんなヤツは居ないよ』とのこと。その瞬間、頭の中で世にも奇妙な物語(←古い)のBGMが鳴りはじめたのを軽く認めつつ、「いやいや、ほら、声の小さいヤツで、朝シフトで居るでしょ」『だから居ないって』なんてやりとりをしてその場は終わった。

次の日に親しいポルテイロ、夕方シフトのジェナーリオ君を通るときにハイ・ムンドについて聞いたところ、「誰それ?朝シフトのマルコに騙されてんじゃないの?ウヒヒーかわいそうに」とのこと。だけどマルコだったら声がデカくて特徴あるからゼッタイわかるしと思って、心底不思議に思って次にマルコに会ったら確認しようと思って次の朝、門を通過するときに居たのはハイ・ムンドだった。

「おはよう、誰?」
『ハイ・ムンドだ(かすれたような小さい声)』

「新入りのハイ・ムンドか?」
『そうだ(聞こえるか聞こえないか)』

「何故声が小さい?」
『・・・風邪をひいている(消え入りそうな声)』

「・・・・・」
『・・・・・』

「マルコ」
『(!)・・・・・』

「おい、マルコだろ」
『・・・・・・・・・・(汗)。』

「マルコ、うそつき」
『おー、アミーゴー、許してくれー、冗談だよー』

「声が違ったからわからなかったぜ、お互いにアホだな」
『ゲヒャゲヒャゲヒャ』

ということで正体がわかったのだが、いったい何がしたかったのか。
ただ単にからかいたかっただけなんだろう、でもあまりにうまく行ってしまったから引けなくなったというところか。愉快な人である。そしてまた、人を信じやすい自分も改めて浮き彫りに。アブナイアブナイ。世渡り気を付けなきゃ。

2014年2月4日火曜日

えればどーる の中で

乗り込んだエレベーターの中に先客がいたとき、みなさんはどのようなポジショニングを取るだろうか。そしてどちらを向いてあの気まずい時間をやり過ごすだろうか。

日本人なら決まって他の人の邪魔にならないような場所(下手すると相手から最も遠い場所)に位置して、入場した方向とは真逆つまりくるりと振り返ってトビラの方を向くに違いない。日本以外の国でも、ほぼほぼ同様な気がする。さほど違和感を感じたことは無い。

さてポルトガル語でエレベーターはエレバドールだ。
ポルトガル語でなになにをする人(や機械)みたいな意味でナントカドールは結構多く、その大げさな響きが可愛い感じがしてときどき吹き出しそうになる(ナントカイスタも多いが同じく大げさで笑える)。乾燥機セカドール、運転手モトリスタみたいな。

そのエレバドールの中が問題だ。ここブラジルでは、乗り合わせた人は皆内側をむいて乗ってくる。例えば混んでいて一人分しかないスペースに乗り合わせたオジさんは、乗ってきたその方向を向いたままどーんとまんじりともせずステイする。そう、完全にみんなの方を向いたままなのである。

なぜこうなるのだろう。ブラジル人同僚に聞くと、「背中を向けると愛想の悪い人みたいだから」との答えだった。また別のブラジル人達からは、後ろを向けてオカマに思われるのを嫌うから、防犯上無防備だからなど、実にお国柄を反映したと言えそうな理由が聞こえてきた。

例えば一つの箱に3人乗っていれば、奥、右、左、それぞれの壁沿いに立って皆中心部を向いて乗る。もはや昇降機サロン状態である。だからといって何かお話しするというものでもない。田舎町であればまたそれは違って、初対面であっても暮らしにゆとりがあるから一言二言話が始まるというのはあるが、この大都市サンパウロではお話などしないのである。であれば向く方向も東京方式で良い様な気がするのだが・・・。

この感覚は、ブラジルに住み始めて7か月経つ今でも慣れない。なんとも異様です。