2013年6月20日木曜日

ブラジルの街頭デモ

この2週間ほど、ブラジルではデモが断続的に発生していて、その参加人数は増加する一方だ。ちょうどこの騒動が始まる一週間前に赴任した者として、この状況について触れなければならないと思う。

6月17日はサンパウロ中心部で6万人、リオデジャネイロで10万人が集結したと報道されている。当初はサンパウロだけで発生した、バスと地下鉄料金値上げに対する抗議デモだったが、そのテーマは次第に広がりを見せ、いまやサッカーイベントに対する浪費の指摘を起点とした反政府デモの様相を帯びてきた。

そもそもブラジル政府は巨大な収賄組織としての性質を帯びているとされ、市民は常に諦め気味に政治を語る傾向にあった。現大統領ジウマ、前大統領ルーラ共に労働者党であり、貧困者層の所得を補てんする政策『ボルサ・ファミリア』を実施して250万人を貧困から救うとして一時期は貧困層を中心に人気を博したものの、その実、当の労働者党が政権を担っている時期に財相が汚職スキャンダルから辞任したり、その他汚職スキャンダルが後を絶たない事態となっており、人気者のルーラ大統領の後を継いだジウマ大統領の人気に陰りが出始めていたのはコンフェデの開会式のスピーチがブーイングで聞こえなかったり観客が背中を向けたりしていたことに現れていた通りだ。

今回、学生・労働者による公共料金の値上げデモがきっかけとなって、こうした潜在的な不満が集まり、『この国に必要なのはFIFA国際基準のスタジアムではなく、教育であり貧困対策である』と感じていた中間層(非常にフツーな人々)の共感を集め、思惑がそれぞれ違う幅広い支持層を巻き込んだ展開を見せ始めた。しかも、スタジアムを造るためにかけられたとされる巨大な予算が、実は一部の権力者のポケットに入っていると実しやかにささやかれている現状がそれを加速させている。

したがって、行進するデモ隊は(一部を除いて)暴力反対を是としている平和的なものだ。今日小生が訪問したブラジル最南部リオグランデドスル州の田舎町においてすら、6月18日に人口の5%に匹敵する規模の2,000人を超えるデモが発現したという。構成人員は、老若男女問わず所得レベル問わず多様性を帯びていたという。参加への呼びかけは、Facebookによるものだという。参加したメンバーからのコメントでは、『ブラジルの一般市民は、これまで政治家の汚職は半ば諦めていたが、自分たちの手で変革をもたらすことが出来るのを実感し始めている』ということであり、これまで自分は政治問題とは無関係であると認識していた20~30代の国民が、行動を起こすことで社会にインパクトを与えることが出来ることに、気が付き始めているという。

きっかけはごく限られた人達のものであったデモだが、実に草の根レベルで萌芽した善意の芽を反映したものに成長していくのであれば、ひょっとするとこの国でかつて見たこともないムーヴメントが今後発現しないとも言い切れず、この変革のただなかに居合わせた者として、注視しなければならないと思う。繰り返しになるが、デモに参加しているのはごくごく普通の人々であり、丸腰だ。暴力反対を是とし、非常にゆったりとした行進であって、何かを破壊するものでもない。そういう意図もない。

(注:そうは言っても、当然外国人にとっては大変危険なので、近寄ってはいけない)

じっさい、この国は、歴史も経済規模も文化もある国であるのに、発展の形がいびつであると常々感じてきた。どこかで無駄が多く、成長の動力がフルに前進へと伝わっていないと感じていた。何かが天井でキャップしているような、そんな無駄を感じてきた。フツーの人々は裕福であるのに、国全体が底上げされていないと。もしそれが汚職体質にあるのだとしたらすぐに是正しなければならないと思うし、それが国民の幻想であって実はもっと大きな問題に突き当たるのだとしたら、それは早く迎えなければならないと思う。いずれにせよ、このいびつだと感じてきたギャップは、将来的には埋められていくはずであり、それが起こる際には記録をしていきたいと思う。

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